ラインナップのデザイン

光学機器メーカー、株式会社ビクセンの製品デザインに関わるようになったのは2008年からです。赤道儀(天体望遠鏡用架台)のフラッグシップ機の製品デザインから始まり、メーカーとしてのブランディングに関わる大きなプロジェクトとなりました。
入門機からハイエンドまでフルラインナップで天体望遠鏡を開発しているのは国内メーカーではビクセンだけ。それを生かし強みに変えるブランドの方向性を、ワークショップのようなかたちで議論しながら作り上げていきました。
その後現在まで、数多くの製品デザインを担当させていただいています。

さて、たくさんの製品を展開していると、それぞれ場当たり的にデザインを考えていてはラインナップに整合性がなくなり混乱してしまいます。そこで、ラインナップを貫くコンセプトとして、

「ハイエンドほど概念に近づく」

という指標を設けました。ここでいう概念とはいわばイデア界にあるであろう、そのプロダクトの本質を表すアイコンです。

赤道儀のアイコンとなる概念は、赤緯と赤経という直行した2本の軸。
双眼鏡のアイコンは、テーパーのついた2本の平行した筒(ダハプリズムの場合)だと考えました。

持ちやすさ操作のしやすさなど実際の使い勝手は十分考慮の上で、フラッグシップ機ではこれらを象徴的にに表現しています。
概念上の軸や筒には角Rなんてついてないでしょうから、極力シンプルで潔いかたちを目指しました。またこのシンボリックな造形は、いわゆる「高級感」にもつながるものだと思います。

概念上のアイコンから普及機に降りてくるにしたがい、身体とのなじみ感、ソフトなイメージを強めていきます。そうしてできたグラデーションの中の適切な位置に各製品固有の事情を置くことで、それぞれの製品の造形テイストが決定されるわけです。

ローエンド ーーーーー> ハイエンド
人間界  ーーーーーーー> イデア界
身体   ーーーーーーー>   概念
親しみやすい  ーー> シンボリック

 

こうした大きな枠組みを作っておけば、後から開発する製品と既存の製品のクラス感の齟齬など、辻褄があわなくなることも防げるでしょう。
また個々の製品のデザインも雲をつかむところから始める必要がないため、効率よく精度を上げられます。

最初にデザインのご依頼をいただいたのが赤道儀と双眼鏡という主力商品のフラッグシップ機だったのが幸いして、こうした構想を作ることができました。

ところで、最近の無印良品の家電製品は、デザイナー深澤直人さんの「家電を壁(家)と人の間にあるモノと捉え」「壁に近いものほど四角く、人に近いものほど丸い」「壁に近い冷蔵庫やオーブンレンジは四角く、手元で使う電気ケトルや炊飯器は丸いデザインを採用している。デザインを考える時には、そのモノのポジションを考えるのが重要」という考えに基づいてデザインされているそうです。

この話を聞いて、どこか共通するものを感じました。

“優しさ”を備えた深澤直人監修の無印良品キッチン家電。“満を持して”発売 – 家電 Watch